はぴねす2010年8月



死に勝った生涯
牧師 藤波勝正

私の教会に属していたお年寄りが最近亡くなり、葬儀をしました。この方は、末期がんで余命2か月という宣告を受けたのち、約9か月の闘病生活をしました。死を意識した日々の心の持ち方、その言動に多くの人が感銘を受けました。

この方が生まれ育ったのは中国地方のたいへん神道が盛んな地域でした。お母様はキリスト者だということで村八分となり、たいへん苦しい日々を送ったようですが、信仰を守り通して敗戦の日を迎えました。

実は、第2次世界大戦のとき、「天皇は神ではなく人間である」と告白したことから、このグループの教会が政府の弾圧を受けたのです。100人以上の牧師が逮捕され、多くの教会が解散させられ、信徒が3人以上集まることが禁止されました。私の両親が通っていた教会の牧師も逮捕され、教会が解散となったことを母から聞いていますし、本も出ています。

この方は、お母様の信仰の歩みを見ており、お母様を尊敬しておられました。洗礼を受けたのち、大学進学のために東京に出てきました。その後、社会人となり、忙しさのために教会に行くことは少なくなったようですが、「教会にはいかなかったが、イエスを信じ、祈り、助けを得てきた」と後に語っていられます。

定年退職後、奥様が末期がんとなりました。そのとき、もう一度教会に戻ることを決意し、私の教会に来られました。奥様は不思議な主の導きでイエスを神の子と信じ、平安のうちに主のみもとに召されていきました。

その数年後、この方が末期がんであることが定期健診でわかり、余命2か月という宣告を受けました。しかし、この方の心は平安でした。私のところに淡々とした声で電話してこられました。翌日病院にお尋ねしたときには、1時間余りにわたって自分の過去を振り返り、神に支えられてきたことを感謝し、天国に入る希望と確信をことばにし、「その日を楽しみにしている」と言われました。私は、目の前にいるこの方が末期がんで余命2か月という診断を受けたとは思えないようすだということに驚くとともに、神の恵みをほめたたえました。

その後も、教会員や私たちがお見舞いに伺うと、いつも天国に入る日を楽しみにし、お母様や奥様のとの再会を待ち望んでおられました。「私たちの国籍は天にあります」(ピリピ3:20)というみことばがいつもこの方の心にあり、肉体的に苦しい時にも神に祈り、平安が与えられていました。末期がんの診断から9か月、入退院を繰り返していましたが、先日、待ち望んでいた御国に帰られました。

この方の信仰生活を見て、天国に対する希望を持ったときに目の前にある死の恐怖に勝ち、主から真の平安が与えられるということを確認することができました。聖書に「死は勝利にのまれた」(Tコリント15:54)ということばがあります。イエスが死に勝ち、よみがえられたのだから信じる者も同様によみがえるという約束が与えられています。ですから、御国に入るという勝利の希望を持ち、死の恐怖に勝つことができるのです。



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